アルカイダがISにライバル感情 マリで復活した
「不死身の男」
( パリの同時テロと競って襲撃 )
【 著者・コラム紹介 】
2015年11月23日(Mon) 佐々木伸 (星槎大学客員教授)
西アフリカのマリの首都バマコで発生した高級ホテル襲撃事件は国際テロ組織アルカイダの
分派によって引き起こされたが過激派組織「イスラム国」(IS)による
パリの同時多発テロが引き金になった公算が強い
その背景には過激派世界の熾烈な功名争いや
ライバル意識がある
✻ ジハードの指針
20日朝、武装集団が「アッラー・アクバル」(神は偉大なり)と叫んで同地の高級ホテル「ラディソンブル」を襲撃
外国人宿泊客ら約
150人を人質に取って立てこもった
これに対してフランス軍の特殊部隊の支援を受けたマリの治安部隊が突入
銃撃戦の末、容疑者
2人を射殺し、夜までに制圧したが、ロシア人
6人や中国人、米国人を含む外国人ら
19人が犠牲になった
治安部隊は容疑者数人を追っている
アルカイダ系の組織「アルムラビトン」が北アフリカのアルカイダ分派「サハラ首長国」と組んで実行した
との犯行声明を出した
「アルムラビトン」は米国務省が最も危険なテロ組織の1つとして指定するグループで
マリ北部やアルジェリア南部のサハラ砂漠などを活動拠点にしている
欧米や中東のアナリストらによると、この襲撃は
ISによるパリの同時多発テロが誘因になっているのは明らかだという
同時多発テロは世界を震撼させたことで
ISから見れば、大きな成果になったが
ベイルート筋は「過激派世界の中でライバル関係にあるアルカイダは
自分たちが依然、
ISを凌ぐ力があることを誇示したかった
のではないか」と指摘した
ISの前身は「イラクのアルカイダ」という組織
2001年の米中枢同時テロ
9・11を起こしたアルカイダが源流だ
同組織はその後、「イラクとシリアのイスラム国」を経て「イスラム国」となったが
ISが無差別の殺りくを繰り返し、これを諌めたアルカイダの指導者アイマン・ザワヒリの命令を聞かなかったため
破門され、それ以降、両者は対立関係にある
しかし過激派の世界では、アルカイダの目標でもあるイスラム原理主義国家「カリフの府」を早々と樹立し
欧米”十字軍”と真っ向から戦っている
ISの方がはるかに上の存在になった
中東・アフリカにはアルカイダの分派は存在するが
ザワヒリのアルカイダ本家はパキスタンとアフガニスタン国境に隠れ潜み
影が薄いこともアルカイダの評判を落としている
こうした劣勢を挽回しようとして起こしたのが今年
1月のパリの風刺新聞社シャルリ・エブドの襲撃事件だった
この事件はアルカイダの分派「アラビア半島のアルカイダ」がザワヒリの指令を受けて起こしたものだが
アルカイダの存在をあらためて認識させることになった
しかし、パリの同時多発テロで再び
ISがその力を圧倒的に示したことにアルカイダは焦りを強め
フランス軍が過激派掃討で軍事介入しているマリのホテルに大規模テロを仕掛けた
との見方が有力だ
ただしこの事件では、襲撃犯が人質の中からイスラム教徒を解放するなどザワヒリが発布した「ジハード(聖戦)の指針」を守り
ISとの違いを際立たせる形になった
この指針は、イスラム教徒を巻き込むことを最小限にとどめる
というもの襲撃犯はイスラム教徒だという人質には聖典コーランの一節を復唱させ
イスラム教徒であることを確認してから解放しており
アルカイダの支持者らはツイッターで「これこそイスラム教徒の真の行動だ」と称賛している
✻ また蘇った不死身の男
「アルムラビトン」の指導者はモフタル・ベルモフタルという隻眼のアルジェリア人テロリストだ
2013年、アルジェリアのイナメナスにある天然ガス関連施設を襲って
プラント建設会社「日揮」の日本人従業員
10人を含め
外国人
40人を殺害した首謀者でもある
ベルモフタルは
6月、リビア東部に潜伏していたところを米軍の暗殺作戦で戦闘爆撃機に攻撃された
リビア暫定政府は死亡したと発表したが、米国はベルモフタルが標的であったことは認めたものの
死亡を最終的に確認していないと慎重な姿勢を示していた
ベルモフタルは
6月、リビア東部に潜伏していたところを米軍の暗殺作戦で戦闘爆撃機に攻撃された
リビア暫定政府は死亡したと発表したが、米国はベルモフタルが標的であったことは認めたものの
死亡を最終的に確認していないと慎重な姿勢を示していた
米国が慎重だったのは、ベルモフタルはこれまでにも何度も死亡説が出ながら生き長らえてきた過去があるからだ
そのしぶとさから「不死身の王子」とも呼ばれているが、マリの襲撃はベルモフタルが計画
実行したテロである可能性が高い
「不死身の男」が再び蘇った
というわけだ
佐々木伸 (星槎大学客員教授)
とっても勉強になりました Thank ' s
by シゲ