🌟 わが人に与ふる哀歌 🌟
伊 藤 静 雄
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わがひとに与ふる哀歌
太陽は美しく輝き
あるひは 太陽の美しく輝くことを希ひ
手をかたくくみあはせ
しづかに私たちは歩いて行つた
かく誘ふものの何であらうとも
私たちの内うちの
誘はるる清らかさを私は信ずる
無縁のひとはたとへ
鳥々は恒つねに変らず鳴き
草木の囁きは時をわかたずとするとも
いま私たちは聴く
私たちの意志の姿勢で
それらの無辺な広大の讚歌を
あゝ わがひと
輝くこの日光の中に忍びこんでゐる
音なき空虚を
歴然と見わくる目の発明の
何にならう
如かない 人気ひとけない山に上のぼり
切に希はれた太陽をして
殆ど死した湖の一面に遍照さするのに
詩 伊藤静雄.....☆ .....
行つて お前のその憂愁の深さのほどに
大いなる鶴夜のみ空を翔かけり
あるひはわが微睡まどろむ家の暗き屋根を
月光のなかに踏みとどろかすなり
わが去らしめしひとはさり
四月のまつ青き麦は
はや後悔の糧かてにと収穫とりいれられぬ
魔王死に絶えし森の辺へ
遥かなる合歓花がふくわんくわを咲かす庭に
群るる童子らはうち囃して
わがひとのかなしき声をまねぶ
(行つて お前のその憂愁の深さのほどに
明るくかし処こを彩れ)
と
詩 伊藤静雄.....☆ .....
曠野の歌
わが死せむ美しき日のために
連嶺の夢想よ!
汝なが白雪を消さずあれ
息ぐるしい稀薄のこれの曠野に
ひと知れぬ泉をすぎ
非時ときじくの木の実熟うるる
隠れたる場しよを過ぎ
われの播種まく花のしるし
近づく日わが屍骸なきがらを曳かむ馬を
この道標しめはいざなひ還さむ
あゝかくてわが永久とはの帰郷を
高貴なる汝なが白き光見送り
木の実照り 泉はわらひ
わが痛き夢よこの時ぞ遂に
休らはむもの!
詩 伊藤静雄.....☆ .....
冷めたい場所で
私が愛し
そのため私につらいひとに
太陽が幸福にする
未知の野の彼方を信ぜしめよ
そして
真白い花を私の憩ひに咲かしめよ
昔のひとの堪へ難く
望郷の歌であゆみすぎた
荒々しい冷めたいこの岩石の
場所にこそ
詩 伊藤静雄
中原中也とともに若い時代に、詩集を読みふけった詩人のひとりです
by シゲ